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東京地方裁判所 昭和63年(ワ)1315号 判決 1990年4月16日

原告 白井俊也

被告 株式会社新成商会

右代表者代表取締役 佐藤一興 外四名

右五名訴訟代理人弁護士 樋渡源藏

同 樋渡俊一

被告 永代信用組合

右代表者代表理事 山屋幸雄

右訴訟代理人弁護士 萩秀雄

同 戸部秀明

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告株式会社新成商会は、原告に対し、別紙物件目録五記載の土地について、横浜地方法務局溝口出張所昭和五二年八月八日受付第三六七六五号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

2  被告吉田由美子は、原告に対し、別紙物件目録五記載の土地について、同出張所昭和五四年一〇月一二日受付第五一六九八号所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

3  被告永代信用組合は、原告に対し、別紙物件目録五記載の土地について、同出張所昭和五四年一〇月三〇日受付第五四一一九号根抵当権設定登記、同出張所昭和五六年七月一六日受付第三一五一三号根抵当権変更登記、同出張所同月二二日受付第三二二四〇号根抵当権設定登記の各抹消登記手続をせよ。

4  被告株式会社菱販は、原告に対し、別紙物件目録五記載の土地について、同出張所昭和五六年八月三日受付第三四一九八号所有権移転登記、同出張所同年七月二二日受付第三二二四二号抵当権設定仮登記の各抹消登記手続をせよ。

5  被告佐藤一興は、原告に対し、別紙物件目録五記載の土地について、同出張所昭和五六年七月二二日受付第三二二四一号抵当権設定仮登記の抹消登記手続をせよ。

6  被告佐藤商事有限会社は、原告に対し、別紙物件目録五記載の土地について、同出張所昭和六一年一〇月一八日受付第五九四五三号抵当権設定仮登記の抹消登記手続をせよ。

7  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  別紙物件目録五記載の土地(以下「本件土地」という。)は、もと原告の父訴外亡白井春吉(以下「春吉」という。)の所有であり、春吉は、昭和五五年四月一九日死亡し、その相続人である原告、訴外白井キク、訴外白井辰己のうち、訴外白井辰己は相続を放棄し、その余の相続人間の遺産分割協議により、原告が本件土地に対する春吉の権利を承継した。

2  本件土地について、横浜地方法務局溝口出張所昭和五二年八月八日受付第三六七六五号により同年五月六日売買を原因として、春吉から被告株式会社新成商会(以下「被告新成商会」という。)に対し所有権移転登記がなされている。

3  本件土地について、前記出張所昭和五四年一〇月一二日受付第五一六九八号により同年七月二一日売買を原因として被告新成商会から被告吉田由美子(以下「被告吉田」という。)に対し所有権移転登記が、同出張所昭和五六年八月三日受付第三四一九八号により同月一日代物弁済を原因として被告吉田から被告株式会社菱販(以下「被告菱販」という。)に対し所有権移転登記がそれぞれなされている。

4  本件土地について、前記出張所昭和五四年一〇月三〇日受付第五四一一九号により被告吉田から被告永代信用組合(以下「被告組合」という。)に対し、同日設定を原因として根抵当権設定登記が、右根抵当権設定登記について、同出張所昭和五六年七月一六日受付第三一五一三号により同日変更を原因として極度額の変更登記が、さらに、同出張所同月二二日受付第三二二四〇号により同月二一日設定を原因として根抵当権設定登記がそれぞれなされている。

5  本件土地について、前記出張所昭和五六年七月二二日受付第三二二四一号により同年六月一日準消費貸借同日設定を原因として被告吉田から被告佐藤一興(以下「被告佐藤」という。)に対し抵当権設定仮登記が、同出張所昭和五六年七月二二日受付第三二二四二号により同月二一日準消費貸借同日設定を原因として被告吉田から被告菱販に対し抵当権設定仮登記がそれぞれなされている。

6  本件土地について、前記出張所昭和六一年一〇月一八日受付第五九四五三号により同年九月三〇日金銭消費貸借同日設定を原因として被告菱販から被告佐藤商事有限会社(以下「被告佐藤商事」という。)に対し抵当権設定仮登記がなされている。

7  よって、原告は、本件土地の所有権に基づき、被告らの本件土地に対する右各登記の抹消登記手続を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実中本件土地がもと原告の父である春吉の所有であった事実は認めるが、原告が相続により本件土地の所有権を取得した事実は否認する。

2  請求原因2ないし6の事実は認める。

三  抗弁

1(一)  本件訴えに関連して、以下の各事件で既にすべて原告の敗訴判決が確定している。すなわち、

原告は、被告新成商会に対し、別紙物件目録一記載の土地について、横浜法務局溝口出張所昭和五二年八月四日受付第三六一九五号二番所有権移転請求権の移転登記及び同出張所昭和五四年八月三日受付第四〇八三七号所有権移転登記、同目録二記載の土地について、同出張所昭和五二年八月四日受付第三六一九五号二番所有権移転請求権の移転登記及び同出張所昭和五四年八月三日受付第四〇八三七号所有権移転登記並びに同目録三、四記載の土地について、同出張所昭和五四年七月二一日受付第三八四九五号所有権移転登記の各抹消登記手続を、被告吉田に対し、同目録三、四記載の各土地について、同出張所昭和五四年一〇月一二日受付第五一六九八号所有権移転登記の抹消登記手続を、被告組合に対し、同目録一、三、四記載の各土地について、同出張所昭和五四年一〇月三〇日受付第五四一一九号根抵当権設定登記、昭和五六年七月一六日受付第三一五一三号一番根抵当権変更登記及び同年七月二二日受付第三二二四〇号根抵当権設定登記の各抹消登記手続を、被告菱販に対し、同目録一、二記載の各土地について、同出張所昭和五六年七月一四日受付第三一〇一七号所有権移転請求権仮登記、同出張所同年八月二一日受付第三六七七三号所有権移転登記、同目録三、四記載の土地について、同出張所同年八月三日受付第三四一九八号所有権移転登記、同目録一ないし四記載の各土地について、同出張所同年七月二二日受付第三二二四二号抵当権設定仮登記の各抹消登記登記手続を、被告佐藤に対し、同目録一ないし四記載の各土地について、同出張所昭和五六年七月二二日受付第三二二四一号抵当権設定仮登記の各抹消登記手続を求める訴え(横浜地方裁判所川崎支部昭和五七年(ワ)第一一号所有権移転登記抹消登記手続請求事件、以下「A事件」という。)を同支部に提起し、同支部は、昭和六〇年九月一八日、原告の請求をいずれも棄却する旨の判決を言渡し、東京高等裁判所は、同事件について、昭和六二年三月三〇日、原告の控訴を棄却する旨の判決を言渡し(同裁判所昭和六〇年(ネ)第二六六五号所有権移転登記抹消登記手続等請求控訴事件)、最高裁判所は、同事件について、昭和六三年四月一五日、原告の上告を棄却する旨の判決を言渡した(同裁判所昭和六二年(オ)第九五七号事件)。

被告菱販は、原告に対し、別紙物件目録三記載の土地について、横浜地方法務局溝口出張所昭和四六年四月一六日受付第一五一七八号所有権移転請求権仮登記の抹消登記手続、及び訴外白井キクに対し、同目録六記載の建物について、明渡し及び約定使用損害金の支払を求める訴え(東京地方裁判所昭和五八年(ワ)第二一三三号土地所有権移転仮登記抹消登記等本訴請求事件)を同裁判所に提起し、これに対し、原告は、被告菱販に対し、反訴請求として、同目録六記載の建物について、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求める訴え(同裁判所昭和五九年(ワ)第一一七一号建物所有権移転登記反訴請求事件、以下両事件を併せて「B事件」という。)を提起したが、同裁判所は、昭和六一年九月四日、被告菱販の本訴請求を全部認容し、原告の反訴請求を棄却する旨の判決を言渡し、東京高等裁判所は、同事件について、昭和六三年九月二八日、約定使用損害金について原判決を一部変更したのみで、原告及び訴外白井キクのその余の控訴をいずれも棄却する旨の判決を言渡し(同裁判所昭和六一年(ネ)第二六七五号土地所有権移転仮登記抹消登記等請求本訴、建物所有権移転登記請求反訴控訴事件、昭和六二年(ネ)第二五〇五号同附帯控訴事件)、最高裁判所は、同事件について、平成元年三月二八日、原告及び訴外白井キクの上告を棄却する旨の判決を言渡した(同裁判所昭和六三年(オ)第一七五五号事件)。

(二)  A・B事件は、基本的事実関係を本訴と同じくするものであり、特にA事件とは実質的に全く同一の紛争であり、同時に解決さるべきものであったのである。しかるに、原告は、右事件で故意に本件土地についてなされた本件各登記の抹消登記手続請求を訴訟物からおとし、同事件が控訴審で敗訴し上告中に本訴を提起したものである。したがって、本訴は、A・B事件の蒸し返しであり、訴訟上の信義則に反し訴権の濫用である。

2  被告新成商会は、本件土地を原告及び春吉の同被告に対する保証債務の代物弁済ないし売買代金をもって右債務の清算をなすための売買により取得したものである。すなわち、

(一) 被告新成商会は、原告が代表者である訴外東光産業株式会社(以下「東光産業」という。)に対し、同訴外会社振出の手形、小切手による貸付を行い、その債権額は別紙手形、小切手一覧表記載のとおり、昭和五二年五月二五日現在で二六三七万五五〇〇円となっていた。

(二) ところが、東光産業は同日手形の不渡を出し事実上倒産したので、被告新成商会と東光産業、原告、及び春吉は、同月末頃、右債権額を確認の上、右債権を昭和五二年五月二六日付の一口の消費貸借の目的とし、弁済期間を同年七月二五日、利息を年一割二分とする、原告及び春吉は東光産業の右債務を連帯保証する旨の合意をした。

(三) そして、前項の貸金の弁済期である昭和五二年七月二五日頃、被告新成商会と原告及び春吉は、春吉所有の本件土地及び別紙物件目録六記載の建物を二二五一万六四〇〇円、同目録一ないし四記載の土地を四九三万二〇〇〇円と評価して売買契約の形式をとり、右債務の弁済に代えて、本件土地、同目録一ないし四記載の土地、及び、同目録六記載の建物の所有権、及び、本件土地、及び、同目録一、二、三、記載の各土地について原告が有していた仮登記上の権利を同被告に移転することを合意した。

(四) 右合意に基づいて、被告新成商会は、同年八月四日本件土地、及び、同目録二、五記載の各土地についての原告の仮登記の移転登記手続を、同月八日及び一七日に本件土地及び同目録六記載の建物の所有権移転登記手続を、それぞれ了した。

(五) 同目録一ないし四記載の土地については所有権移転登記を行わないままとなっていたので、昭和五四年頃になって被告新成商会が春吉に対し、同目録一ないし四記載の土地の所有権移転登記をなすよう求めたところ、春吉から、昭和五二年七月二五日以降に発生した債務を含めてこれまでの同被告に対する債務の一切をきれいにしてほしいとの希望がだされ、これに基づいて交渉した結果、昭和五四年五月二六日頃までに、被告新成商会と春吉との間に、本件土地を含む別紙物件目録記載の各土地建物を被告新成商会の所有として、未登記の同目録一ないし四記載の土地については所有権移転登記を行う、春吉の債務は、右各土地建物の所有権移転によって全て弁済されたものとし、同被告は、五〇〇万円を春吉に支払う、との内容の最終的合意が成立し、同日頃、右合意に従った処理をするため、右各土地建物について売買契約書等を作成した。そして、被告新成商会は右合意に基づいて、春吉から所有権移転登記に必要な書類の交付を受けて同目録一ないし四記載の土地の所有権移転登記手続を了したものである。

3  その余の被告らは、被告新成商会もしくは被告新成商会からの本件土地に対する権利の転得者との合意に基づいて原告主張の各登記をしたものである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は否認する。本訴はA・B事件とは訴訟物を異にし、新たに被告ら主張の代物弁済契約等の詐欺による取消及び被告ら主張の手形小切手債権の原因関係の欠缺の主張をしている。

2  抗弁2冒頭の事実は否認する。

3  抗弁2(一)の事実のうち、原告が東光産業の代表者である事実、東光産業が被告ら主張の手形小切手(以下「本件手形小切手」という。)を振出した事実は認める。しかし、右手形小切手の中で別紙手形、小切手一覧表の約束手形番号一、二、四、五、六、八ないし一二の手形及び小切手番号一、二の小切手についてはいずれも原因関係を欠き支払義務のないものである。

4  抗弁2(一)ないし(四)の事実のうち、東光産業が昭和五二年五月二五日手形の不渡を出した事実、被告新成商会と東光産業らとの間で形式上被告ら主張のような債務の確認、準消費貸借、代物弁済契約が行われ、被告ら主張の登記のなされた事実は認める。但し、右代物弁済契約等及びこれに基づく登記は後記のとおり被告佐藤の詐欺により行われたものである。

5  抗弁2(五)の事実は否認する。

五  再抗弁

被告佐藤は、昭和五二年五月二五日東光産業が手形の不渡を出した際、春吉及び原告に対し、真実はその意思がないのにこれがあるように装い、東光産業及びその保証人としての春吉に対する債権者であった訴外富士産業株式会社(以下「富士産業」という。)からの執行を免れるため、「被告新成商会が東光産業に対し貸金債権を有するかのように仮装し、本件土地の登記名義を被告新成商会に売買を原因として移した形をとり、富士産業が債権を放棄したら、これを元に戻す。」旨虚偽の事実を申し向けて欺罔し、春吉及び原告がその旨誤信した結果、被告新成商会と東光産業、春吉及び原告との間の被告ら主張の昭和五二年五月末頃の債権の確認、準消費貸借契約、同年七月二五日頃の本件土地及び別紙物件目録六記載の建物、同目録一ないし四記載の土地の代物弁済ないし売買契約及び右契約に基づく移転登記がなされたものである。

そこで、原告は、被告新成商会に対し、平成元年五月二三日の本件第八回口頭弁論期日において右各意思表示を取り消す旨の意思表示をした。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁事実は否認する。

七  再々抗弁(被告組合)

仮に被告佐藤から原告に対し再抗弁記載の欺罔行為がなされたとしても、被告組合はそのことを知らなかった。

八  再々抗弁に対する認否

再々抗弁事実を否認する。

第三証拠<省略>

理由

一  請求原因1の事実中本件土地がもと原告の父である春吉の所有であった事実及び請求原因2ないし6の事実は当事者間に争いがない。

二  被告らは、本訴が信義則に反し許されない旨主張するので、まずこの点について判断する。

A・B事件(以下両事件を併せて「前訴」という。)の内容と経過及び本訴との関係について、<証拠>に弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

1  A事件の内容と経過

原告らは、昭和五七年に別紙物件目録記載の各不動産のうち同目録五記載の土地(本件土地)を除く物件について、被告佐藤商事を除く被告らに対し、本訴と同一の請求原因で、抗弁1の(一)の記載のとおり、本訴と同趣旨の登記(被告新成商会を除く被告らとの関係では受付番号も全く同一の登記をも多数包含している。)の抹消登記手続を求め、横浜地方裁判所川崎支部にA事件の訴えを提起した。

A事件で、被告佐藤商事を除く被告らは、本訴抗弁2記載のとおり、別紙物件目録記載の各土地について、被告新成商会が右各土地の所有権及び仮登記上の権利を、原告及び春吉から、同被告に対する保証債務の代物弁済ないし売買代金をもって右債務の清算をなすための売買により取得した旨主張し、これに対し、原告は、被告新成商会と東光産業らとの間で形式上右被告佐藤商事を除く被告ら主張のような債務の確認、準消費貸借、代物弁済契約が行われ、同被告ら主張のような登記がなされた事実は認めるが、本件手形小切手の一部については原因関係を欠く(主張内容は本訴における主張とほぼ同旨)、右代物弁済契約等及びこれに基づく登記は、富士産業からの執行を免れる目的で、被告新成商会と東光産業らとの間でなされた通謀虚偽表示であるなどほぼ本訴と同旨の認否反論をした。

第一審裁判所である同支部は、昭和六〇年九月一八日、被告佐藤商事を除く被告ら主張のような債務の確認、準消費貸借、代物弁済契約の事実を認め、原告の本件手形小切手の原因関係欠缺の主張及び通謀虚偽表示の主張等をいずれも排斥し、請求棄却の判決をした。

原告は、右判決について、控訴を提起した(東京高等裁判所昭和六〇年(ネ)第二六六五号)が、新たな主張はせず、控訴裁判所も、右債務の確認、準消費貸借、代物弁済契約の事実を認め、原告の主張をすべて排斥し、昭和六二年三月三〇日、控訴棄却の判決をした。

原告は、右判決について、上告を申し立てたが(最高裁判所昭和六二年(オ)第九五七号)、昭和六三年四月一五日上告棄却の判決を受け、A事件は確定した。

2  B事件の内容と経過

被告菱販は、昭和五八年に本訴抗弁2記載と同一の原因で別紙物件目録三記載の土地及び同目録六記載の建物の所有権を取得したとして、同土地について、原告に対し、原告名義の所有移転請求仮登記の抹消登記手続を、同建物について、原告及び訴外白井キクに対し、その明渡し及び約定使用損害金の支払をそれぞれ求める訴えを提起し(東京地方裁判所昭和五八年(ワ)第二一三三号)、これに対し、原告は、被告菱販に対し、反訴請求として、同建物について、真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求める訴えを提起した(同裁判所昭和五九年(ワ)第一一七一号)。

右B事件の中で、原告及び訴外白井キクは、被告新成商会の東光産業に対する昭和五二年五月二五日現在における貸金債権のうち、金一九六一万一九〇〇円の限度についてはこれを認めるとしたうえで、A事件同様本件手形小切手の一部については原因関係を欠く、前記代物弁済契約等及びこれに基づく登記は、富士産業からの執行を免れる目的で、被告新成商会と東光産業らとの間でなされた通謀虚偽表示であるなどほぼ本訴と同旨の認否反論をした。

第一審裁判所である同裁判所は、被告新成商会が東光産業に対し昭和五二年五月二五日現在において、別紙手形、小切手一覧表記載の本件手形小切手による合計二六三七万五五〇〇円の貸金債権を有していた、被告新成商会と東光産業は、同月二六日、右貸金を一口の消費貸借とする準消費貸借契約を結び、春吉及び原告が東光産業の債務を連帯保証した、東光産業が倒産し右債務の弁済ができなくなったので、被告新成商会と春吉及び原告は、同年七月二五日、右債務の弁済に代え春吉所有の別紙物件目録三記載の土地及び同目録六記載の建物及び本件土地を含む同目録記載のその余の土地の所有権並びに原告の有していた別紙物件目録三記載の土地及び右同目録記載のその余の土地に対する仮登記上の権利を被告新成商会に譲渡する旨の代物弁済契約を締結し、右契約に基づき、同目録六記載の建物について同年八月一七日、同目録三記載の土地について昭和五四年七月二一日いずれも被告新成商会に所有権移転登記(登記上の原因は売買)がなされたと認定し、原告の本件手形小切手の原因関係欠缺の主張及び通謀虚偽の主張をいずれも排斥し、被告菱販の本訴請求を全部認容し、原告の反訴請求を棄却した。

原告及び訴外白井キクは、右判決について、控訴を提起し、被告菱販も附帯控訴したが(東京高等裁判所昭和六一年(ネ)第二六七五号、昭和六二年(ネ)第二五〇五号)、原告及び訴外白井キクは、新たに被告新成商会の東光産業に対する昭和五二年五月二五日現在における貸金債権のうち、金一九六一万一九〇〇円の限度についてはこれを認めるとした原審での前記自白は真実に反しかつ錯誤に基づくものであるから撤回する旨主張したのに対し、控訴裁判所は、昭和六三年九月二八日、原審での前記認定事実を維持したうえ、右自白の撤回の主張についても、被告新成商会の東光産業に対する同日当時の貸金債権額は、原告及び訴外白井キクが認めた金一九六一万一九〇〇円の限度にとどまらず、被告菱販主張の債権額二六三七万五五〇〇円の全額を認定することができるとしてこれを許さず、約定使用損害金請求について一部原判決を変更しただけで、原告及び訴外白井キクの控訴を棄却した。

原告及び訴外白井キクは、右判決について、上告を申し立てたが(最高裁判所昭和六三年(オ)第一七五五号)、平成元年三月二八日上告棄却の判決を受け、B事件は確定した。

3  A・B事件と本訴との関係

原告は、A事件の上告中でB事件の控訴審継続中の昭和六二年一二月一五日本訴を提起した(本件記録上明らかである。)。

原告は、本訴において実質的に前訴における通謀虚偽表示の主張と同工異曲の主張すなわち被告ら主張の代物弁済契約等の詐欺による取消及び前訴同様の主張すなわち被告ら主張の本件手形小切手債権の原因関係欠缺の主張を繰り返すのみである。

本件土地は、別紙物件目録六記載の建物の敷地をなしており、同土地を取り囲む形で同目録一、二、四の土地が存在し、同目録一記載の土地に続いてそこから公道に接続する部分に同目録三記載が存在しており、要するに本件土地を含む同目録記載の土地建物は一団の形状をなし、現実的にも、もと春吉所有のその自宅の建物及び敷地(本件土地がその中心部分)として一体的に利用されているのであって、しかも原告が本訴で抹消を求めている各登記はいずれもA・B事件の訴えが提起される時点において既になされていたものであるとともに、A・B事件の審理においても、右土地建物全体について前記代物弁済契約等の効力についても原告は攻防を尽くし、同事件の各判決も本件土地についての右契約等の効力も他の物件に関するそれと一体のものとして判断しているのであり(原告は、本訴における本人尋問に際して初めてそのことを知ったかの如くに供述するが、前訴の内容・経緯に照らし、到底措信できるものではない。)、原告は、本訴における主張を前訴特にA事件で請求原因として主張するにつき何らの支障はなかったものといわざるを得ない(原告は、本件土地もその対象とすると、着手金及び報酬等が高額になる旨相談した弁護士から言われたと供述するが、本件土地が前記自宅敷地の正に中心部分をなしていることからしても、俄かに措信し難いところである。)。

三  前項の事実関係のもとにおいては、前訴と本訴は、訴訟物を異にするとはいえ、ひっきょう、春吉及び原告から代物弁済契約等により土地、建物の譲渡を受けた被告新成商会もしくは被告新成商会からの右土地、建物に対する権利の転得者との合意に基づいて原告主張の各登記をした者に対し、右代物弁済契約等の無効を前提としてその取戻を目的として提起したものであり、本訴は、実質的には、前訴の蒸し返しというべきものであり、前訴において、本訴と同様に右代物弁済契約等の効力を主要な争点として、挙証責任を負う原告が主張・立証し攻防を尽くしたと認められ、本訴の請求をすることに格別の支障もなかったのにかかわらず、さらに原告が同一当事者を被告として、本訴を提起し実質的に前訴の蒸し返しというべき請求や主張の繰り返しをすることは、実質的に一個の紛争を恣意的分断して訴えを提起することを原告に許すことにもなり、本訴提起時にすでに多数の勝訴判決を得て、もはや本件については実質的に決着済みとの被告佐藤商事を除く被告らの合理的な期待と信頼にも反し、右各判決がいずれも確定した現時点においては、同被告らの地位を不当に長く不安定な状態におくことにもなることを考慮するときは、原告の残部請求の利益を検討してもなお、訴訟上の信義則に照らして許されないものと解するのが相当である(本訴提起時において前訴の各判決は未だ確定してはいないけれども、前訴の内容と経過に照らし、この事情は右判断を左右するに足りないと言うべきである。)。

なお、本訴ではA事件の被告ないしB事件の反訴請求の被告とされていない被告佐藤商事も被告とされており、前訴の当事者となっていなかった者に対し前訴確定判決の効力が及ぶのは、民訴法二〇一条に定める範囲に限られる。

しかしながら、同被告を除く本訴被告らとの関係で右代物弁済契約等の効力を争うことが訴訟上の信義則に反し許されない以上、前訴で当事者となっていなかった者に対する関係でも、本訴において原告が前訴と実質的に同様の右の主張をすることは、前訴において解決したと同一の紛争を再び無益に繰り返すに等しく、紛争解決の一回性の見地からみて著しく妥当性を欠くというべきであり、やはり訴訟上の信義則に反し許されないものと解するのが相当である。

そうすると、原告が右代物弁済契約等の効力を争う主張をすることが訴訟上の信義則に反し許されない以上、これを前提とする原告の請求は、その余の点の判断をするまでもなくいずれも理由がない。

四  以上の次第で、原告の本訴請求は、いずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小澤一郎)

別紙<省略>

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